当科では患者さんに負担の少ない腹腔鏡下肝切除を積極的に行っています。腹腔鏡手術ではカメラ画像を見ながらの手術となり、直接臓器に触れることはできないため、3Dシミュレーション画像や超音波画像を見ながら、3次元構造をイメージしながら、手術を進めます。
腹腔鏡手術では、肝臓の細い血管や組織がカメラ画像でよく見えるため、丁寧な手技が可能となり、出血量が少なくなります。
最近では、近赤外線を用いた特殊なカメラを用いて、肝腫瘍や血流領域を発光させて認識し、切除する範囲を決定することも行っています。
また開腹手術と比べ傷も小さくなるため痛みが少なく、早期退院が可能となります. 過去5年間で166件の腹腔鏡下肝切除術を行っています。
従来、大きな開腹創を必要としていた膵切除術ですが、近年では手術の負担を減らして早く回復できる低侵襲手術(腹腔鏡下手術・ロボット支援下手術)や脾温存膵体尾部切除を積極的に行っています。2021年には腹腔鏡下膵頭十二指腸切除を、2023年1月からはロボット支援下膵切除術も開始しております。
この様な低侵襲手術は膵嚢胞性腫瘍、神経内分泌腫瘍やその他の良性・低悪性度腫瘍の多くの患者さんと、膵臓がんの一部の患者様に対して行っています。
特にロボット(ダビンチ)支援による膵臓がん手術では、腹腔鏡手術と同様に小さな創部から、先端に臓器から病巣を剥がす「鉗子」がついた4本のアームを挿入します。アームは腹腔鏡や人間の手よりも可動域の広い関節を備えており、手ぶれが全くなく繊細は操作が可能で、開腹手術と同様に患部を切り取ったり、止血したりできます。またお腹の中を高解像度のカメラにより3D映像で見ることができ、患部を細かく観察できるため繊細な剥離が可能です。
この様な低侵襲手術は適応であれば積極的に行う方針としております。治療方針に関しては金沢大学においては、内科・外科・放射線科・病理が協力して診断、推奨される治療方針を決定しており、患者さんにも丁寧な説明を行いながら、患者さん個人に最も適した治療法をご提案しております。
当科では巨大肝腫瘍や深部の太い血管に腫瘍が浸潤しているような場合でも積極的に手術を行っています。
肝臓は広範囲に切除すると、残った肝臓が小さくなり、術後に肝不全の危険を伴います。そのような場合, 放射線科と協力し、経皮経肝門脈塞栓術を行うことで肝切除の限界や安全性を高めています。経皮経肝門脈塞栓術は、手術の前に切除する肝臓の門脈を塞栓しておくことで、残る肝臓の体積を増大させる手法です。
肝臓の右葉および左葉に多発する転移性肝がんに対して、腫瘍の根治性や手術の安全性を考慮した上で、積極的に切除を行っています。肝切除後の安全性が担保できれば、1回の手術ですべての肝腫瘍を切除します。
肝臓の切除範囲が広くなるため、1回の手術では切除が困難な肝腫瘍の場合は、まず1回目の手術で左葉の腫瘍を部分的に切除します。その後、右葉に経皮経肝門脈塞栓術を加えて、左葉の肝臓が再生してから2回目の右葉切除を行い、最終的にすべての腫瘍を切除します(計画的2期切除)。このような場合でも腹腔鏡下肝切除を行うことで、創部が縮小化することに加えて、腹腔内や肝臓周囲の癒着が軽減し、患者さんの負担を減らす取り組みを行っています。
門脈圧亢進症により脾臓が増大し、脾腫を認めることや、異常な側副血行路(シャント)が発達するため、脾臓摘出には術中の出血リスクが伴います。当院では、その出血リスクを軽減するための工夫として、術前に脾臓へ向かう血管(脾動脈)の塞栓術を行うこともあります。また低侵襲手術である腹腔鏡下での脾臓摘出手術の定型化を行い、安全に腹腔鏡下手術を施行しています。当科は日本門脈圧亢進症学会技術認定医(手術療法)を取得した医師が在籍しております。
金沢大学附属病院では、2021年2月に膵癌診療ユニットを結成し、外科だけでなく、内科(消化器内科、腫瘍内科)、放射線科、病理から膵がん診療に携わる医師が、毎週集まって、当院を受診されたすべての膵がん患者さまの診断情報を確認し、協議のうえで治療方針を決定しています。
金沢大学の膵がん診療エキスパートが団結し、総合力で膵がん診療を行っています。
膵臓がんは症状が出にくく、有効ながん検診方法が確立されていないため、早期発見が難しく、すでに進行してしまった状態で発見されることも少なくありません。当院では、膵がんの家族歴を有する方、糖尿病を新規に発症された方や急に悪化された方、膵炎の既往のある方、検診のエコー検査で異常を指摘された方などに対して、高精度の画像診断を行うことで、膵がんの早期発見に努めており、膵管の狭窄など、前がん病変や微小な膵がんが疑われた方には、積極的に手術を行っています。その際には、“患者さんに優しい低侵襲手術”に書かれているように、腹腔鏡下手術やロボット支援下手術など、からだへの負担の少ない低侵襲手術を取り入れています。
当科では、これまで多くの膵がんの進展に関する研究を放射線科や腫瘍内科と共同で行ってきており、その成果を著書や論文として発表してきました。これまで行ってきたさまざまな研究の成果により、膵がんの局所進展に関する要点を習得し、膵臓がんが発生した場所やひろがりに応じた最適な手術術式を確立してきました。その結果、手術で残りなくがんを切除できた患者さまの割合は80%を越え、がんを残りなく切除できた患者さまの5年生存率は55%まで向上してきています。 難治とされている膵がんであっても、適切に手術ができれば、約半数の方は、がんを克服できる可能性があります。
膵臓がんは早くから膵臓外にひろがり(浸潤)やすく、肝臓や肺などの遠隔臓器への転移をきたしていなくても、重要な動脈にがんが到達しているため、切除が困難(切除可能境界・動脈)、あるいは、切除ができない(局所進行切除不能)と診断されることが少なくありません。このように進展した膵がんは局所進行膵がんとよばれ、仮に手術を行っても、はやくに、局所(手術で切除した部位の近く)や、遠隔臓器(肝臓、肺、離れたリンパ節、腹膜など)に転移をきたしてしまい、とても治りにくい病状と考えられています。
金沢大学では、局所進行膵がんに対して、消化器内科と共同で、強力な化学療法を6か月以上行った後に、効果がみられた方に、手術を行うという治療方法に取り組んでいます。このように手術前に、最大限の化学療法を行うことで、病変を縮小させ、取り残しなく切除できる可能性が高まるだけでなく、術後の遠隔臓器転移の発生を抑えられると考えています。局所進行膵がんに対して、長期間の化学療法後に行う手術は、がんの進展やがんに伴う炎症などの影響によりその難易度は高まります。さらに当院では、がんが進展して剥離が困難となった動脈をがん部とともに切除して再建する手法も積極的に行っています。このような動脈合併切除手技は極めて難易度が高く、安全に施行できる施設は世界的にも限られています。当院では、肝移植手術の際に行われる血管吻合の技術を生かすことで、動脈合併切除手術を安全に施行できる実績を積み重ね、国内では有数の施設となっており、他院で手術困難とされた多くの患者さまを受け入れて治療しています。当院では、最近の5年間で、主要な動脈に接触・浸潤を有する局所進行膵がん患者さまの54%の方に手術を行うことができており、手術ができた患者さまの3年生存率は約70%となっております。
金沢大学附属病院では、院内の膵がんエキスパートが団結して膵がんの診療にあたっています。難治とされる膵がんに対して、患者さまに応じた最善の治療をご提供できる体制が整っています。特に、他院で切除が難しいといわれた方も当院で治療をお引き受けできる場合がありますので、ご希望の方は、当院の受診をご検討ください。