呼吸器外科

手術などの治療法

患者さんに優しい低侵襲手術

肺切除術などでは、従来、大きな術野で直視下に手術を行うために、大きな皮膚切開と呼吸筋の離断、肋骨の切断を必要としていました。しかし、当科では全国でも早い時期から胸腔鏡手術を取り入れ、「病気がきちんと治り、手術が安全に行われること」を前提に「できるだけ小さい創で、できるだけ痛くない手術」を行っています。このような低侵襲手術を行うために様々な手術器具の開発や手術手技の工夫を行っています。

手術創の大きさ

手術創の大きさは、症例に応じて12cm開胸創(open thoracotomy)、7-8cm開胸創で胸腔鏡併用(MATS、 Minimal access thoracic surgery)、 完全胸腔鏡(VATS、 Videoscopic thoracic surgery)の3段階にわけています。

手術創の大きさ
【左】12cm開胸創・【中央】7-8cm開胸創で胸腔鏡併用(MATS)・【右】完全胸腔鏡(VATS)

肺切除における積極的区域切除と選択的リンパ節郭清

原発性肺がんの標準手術は肺葉切除と系統的リンパ節郭清ですが、小さい肺がんでは正常な肺を取り過ぎることになります。また、最近多発肺がんが発見されることが多くなり、複数回手術を行うためには、できるだけ正常肺を温存する必要があります。当科では、腫瘍径が2cm以下の悪性度が低いと判断した原発性肺がんに対しては積極的区域切除術を行い、できるだけ正常な肺を温存しています。
さらに、過去約40年の手術データの蓄積から肺がんの存在する部位からリンパ節転移の可能性のある範囲を予測し、いわゆる選択的リンパ節郭清を行い、不要なリンパ節郭清に伴う神経・血管の損傷を防いでいます。

肺悪性疾患に対する完全胸鏡下手術(VATS)

肺悪性疾患では、おもにI期原発性肺がん症例に対し、完全胸腔鏡下に肺葉切除または区域切除を行っています。基本的に2.5cmの小切開2か所と1か所の小穴で手術を行います。

完全胸腔鏡手術の創と実際の手技
完全胸腔鏡手術の創と実際の手技

縦隔腫瘍、重症筋無力症に対する胸腔鏡下手術

当科では縦隔腫瘍に対しても内視鏡下での手術を行っています。前縦隔腫瘍に対しては、胸腔鏡による手術のほか、剣状突起下(みぞおち)から胸骨を吊り上げて行う内視鏡手術も行っています。

ロボット支援下手術(RATS)

手術支援ロボットは、欧米を中心に医療用道具として認可され、1997年より臨床応用されています。本邦では2009年に本機器が厚生労働省により薬事承認されております。呼吸器外科の領域では、2018年に「肺悪性腫瘍に対する胸腔鏡下肺葉切除術」、「胸腔鏡下縦隔腫瘍切除術」が保険適応となりました。
当科では2010年に日本で2番目に肺癌に対するロボット手術を始めました。2018年11月から北陸で最も早く肺癌、縦隔腫瘍ともにロボット手術の保険適用となり、症例を重ねています。2020年3月末までに肺癌30例、縦隔腫瘍 3例に対してロボット支援下手術を施行しており、良好な成績を得ています。手術は3次元のフルハイビジョン画像で解剖の詳細を確認しながら行え、手術道具の細かな動きが可能になります。

ロボット支援下手術(RATS)
ロボット支援下手術(RATS)

単孔式胸鏡下手術(Uniportal VATS: U-VATS)

単孔式胸腔鏡下手術 (Uniportal VATS) とは、文字通り1つの傷 (単孔) の下に手術を行う最新かつ最も低侵襲な胸腔鏡下手術です。近年の医療機器の進歩に伴い中国や台湾を中心としたアジアおよびヨーロッパの一部の地域において、より低侵襲な胸腔鏡手術 (Reduced port VATS) を目指した結果考案されました。
従来の複数の孔で行う胸腔鏡手術よりも整容性に優れ、また、損傷する肋間数が少ないことから疼痛が少ない可能性が示唆されています。当院では2019年6月から原発性肺癌 (臨床病期I期)、転移性肺腫瘍にUniportal VATSを導入しています。

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両側同時進行胸腔鏡下拡大胸腺摘出術

重症筋無力症に対しては拡大胸腺摘出術を行いますが、両側胸腔鏡による同時手術も行っています。胸腔内CO2送気は広い術や確保に有用なだけでなく、左右同時に胸腔鏡手術を行い、お互いにアシストしあうことが可能となり、より精密な手術を行い手術時間の短縮に役立てています。

両側同時進行胸腔鏡下拡大胸腺摘出術

3D-CTによる肺血管、気管支、解剖の術前把握

胸腔鏡手術では限られた視野のなかで、かつ通常2次元のモニター画像を見ながらの手術となります。肺葉切除または区域切除では肺静脈、肺動脈といった太い血管の処理を必要としますが、症例によって変異や分岐異常が多く、その処理には時として困難を伴うことがあります。当科では放射線科の協力のもとに、造影CT画像を3D画像に再構築し、これら血管の分岐、走行を術前に把握した上で手術に臨むことで、安全で確実な手術を速やかに遂行するよう努めています。

3D-CTによる肺血管、気管支、解剖の術前把握

柔らかい細径胸腔ドレーンの採用

肺切除後には胸腔内からの排液や空気を排出するために胸腔ドレーンを挿入する必要があります。一般にはソラッシクドレーン(24-36Fr)が用いられますが、太くて硬いドレーンは患者さんに強い疼痛を引き起こします。理想的な胸腔ドレーンは素材が柔らかく細径であり、また内腔が確保され十分な排液・排気効果があるものです。
当科では、より細径で、柔らかく、内腔を十分確保したシリコンドレーン(19Fr)やポリウレタン胸腔ドレーン(15Fr)を用いています。

【左】19Fr silicon・【右】15Fr polyurethane drain
【左】19Fr silicon・【右】15Fr polyurethane drain

気管支鏡検査・治療

当科では年間200例を超える気管支鏡検査を行っており、気管支鏡下治療も積極的に施行しています。気管支鏡検査時には、患者さんに対して、鎮静剤の静脈内投与による苦痛のない麻酔方法を本邦の他施設に先駆けて行ってきました。
検査では、電子内視鏡のほか、蛍光内視鏡(AFI system)、細径気管支鏡を使用し診断を行っています。気管支鏡治療として、レーザー治療、気管支腔内照射、光線力学療法(PDT)、ステント治療等を施行しています。

光線力学療法:PDT

気管・気管支の早期癌では手術を行わなくても、光線力学療法で治癒することが可能です。日本海側では当科だけが行っています。光線力学療法では,腫瘍にだけ集まりレーザーを当てると活性酸素の仲間を発生する物質を体に投与し,気管支鏡でレーザーを当てると癌だけを死滅させることが可能です。

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気管・気管支ステント

気道狭窄に対してステント留置を行い、呼吸困難を改善し、肺癌などの治療を行えるようにします。

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シリコンステント
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ExpandableMetallicStent

クリニカルパス

ほぼすべての疾患にクリニカルパスを使用し、不必要な術前・術後検査は行わず、すべての患者さんに均一な最高水準の治療を行っています。

手術の翌日から歩行、食事を開始し、点滴を終了します。これまで、90%以上の患者さんで術後10日以内での退院が可能となっています。

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