60代以上の高齢者で男女比は約5:1と男性に多く、わが国では毎年約9,000人が食道がんにかかります。食道がんの発生要因としては、飲酒や喫煙、辛い飲食物の嗜好などが密接に関連するといわれています。解剖学的にリンパ節転移や隣接臓器(大動脈、気管支、肺など)への浸潤を起こしやすいことから、食道癌は胃癌や大腸癌などと比べると極めて予後の悪い癌です。
我が国での食道がん治療では手術が中心的な役割を果たしており、リンパ節郭清を伴う食道切除術が標準的手術と考えられています。身体に与える負担が非常に大きく難しい手術とされてきましたが、近年、鏡視下手術の導入や術後管理などの進歩により手術による合併症の発生や死亡率は著しく減少しました。
また手術の前後に再発を予防する目的で化学療法(抗がん剤治療)や放射線治療を併用した集学的治療を行うことで、食道がんの再発を抑制し根治を目指します。早期癌では内視鏡的治療や化学放射線療法により治癒することも期待できます。患者様の腫瘍の進行具合(病期・ステージ)、全身状態などの病状に応じて最も適した治療法を一緒に相談した上で決めていくことになります。
当科では食道がん治療において、患者様の病状・進行度に応じて化学療法、放射線療法、外科的手術などを組み合わせた集学的治療を行っています。中でも手術においては、術後の回復が速やかで侵襲の少ない鏡視下手術や、さらに精緻な手術操作を可能とするロボット支援手術を積極的に行っています。
胃癌は文字通り胃にできる癌です。胃癌発生のリスク因子としてヘリコバクターピロリの感染や高食塩摂取、喫煙などがあげられます。2019年の日本における胃癌の死亡数は42,931人で、悪性新生物の中で、肺癌、大腸癌に次いで第3位です。しかしながら、早期診断で過半数の人は早期の状態でみつかっており、治療で治る率が高くなり、治療成績が向上しています。胃癌の初期症状として体重減少や食欲不振、おなかの不快感などがあげられますが、胃癌検診で早期発見することが重要です。
胃癌には、生物学的に特性の異なる様々なタイプがありますが、これまでの治療成果をもとに、当科では、個々の症例に合わせた最先端の治療を行っております。治療の方針は、胃がんの進行度、患者さんの体の状態などを考慮して決定します。
胃がんの治療方針は、主に以下の3つです。
当科の特色として早期胃癌から進行癌まで積極的に低侵襲手術 (腹腔鏡手術・ロボット支援下手術)を導入しています。また高度な進行癌では手術を中心に術前化学療法を行っており、患者さん個人に合わせた治療を心がけております。
しかし、このような治療方針は私たちが勝手に決定するわけではなく、日本胃癌学会より刊行されている胃癌治療ガイドラインの推奨治療を参考にして患者様とそのご家族と相談しながら決定します。
GIST(Gastrointestinal Stromal Tumor)とは消化管間葉系腫瘍の略称です。GISTは一般的に、消化管から発生する腫瘍の一種で、胃癌のように粘膜から発生するのではなくさらに深い層(筋層)から発生します。胃から発生するGISTを胃GISTと呼び、発生頻度は胃が最も多く(50~70%)、小腸(20~30%)、大腸(10%)がそれに続きます。
腫瘍というのは異常な細胞の増殖を示しますが、悪性腫瘍と良性腫瘍の違いは、悪性は増殖する能力が高く周囲臓器や血管、リンパ管や他の臓器に転移をきたす能力を持つ腫瘍、良性はある一定以上は大きくならず、転移をきたさない腫瘍を指します。その点では、GISTは癌ほどの悪性度は持ちませんが、悪性腫瘍に分類され、適切な治療を行うことが望ましいとされます。
検診の胃カメラや他疾患の治療中に偶発的に発見されることが多いですが、胃GISTが疑われる場合で2㎝以上ある場合は詳しい検査を行い、GISTと診断された場合は基本的に切除をお勧めしています。
リンパ節や周囲臓器への進展をすることが稀であることから胃GISTの場合は腫瘍と一部の胃組織を切除する胃局所切除を行うことが一般的です。近年では腹腔鏡技術が進歩しており、当科でも積極的に腹腔鏡下胃局所切除(LECS)や経皮的内視鏡下胃内手術を施行しています。
肥満はさまざまな病気を引き起こし、結果として寿命を縮めます。さらには、若くして肥満になった方ほど寿命への影響が大きいことも分かっています。
体重が同じでも身長によって体型は異なります。太っているかどうかは身長と体重のバランスで考えるわけです。一般的に用いられる指標は『BMI』と呼ばれる値で、体重を身長で2回割って求めます [BMI=体重 (kg) ÷ 身長 (m) ÷ 身長 (m)]。BMIがいくつかによって肥満度が決まります。下に示すのは日本の判定基準です。この中で、BMI 35以上を高度肥満と呼び、日本における手術適応の範囲内となります。
ダイエット目的で手術を受けるなんて考えられないと思います。しかし、肥満は必ず病気を引き起こし、必ず寿命を縮めます。『病気を予防し健康寿命を延ばすために手術をする』と考えたらどうでしょうか?決して驚くようなことではないと思います。
手術は腹腔鏡で行います。小さなキズが6カ所できますが、一番大きなもので2cm程度です。袋状になっている胃を、細長い管になるよう切り取ります。これにより、食べ物が一度にたくさん入らなくなるのはもちろん、食欲が抑えられたり、血糖値が改善したりと様々な効果が得られます。
大腸がんは年々増加傾向にあり、2017年から2019年までの全国がん登録データにおいて、最も罹患率が高いがんであり、死亡率も2位となっています。しかし、大腸がんは決して怖い病気ではなく、適切な治療を受けることで治癒が得られることも多い疾患です。
当科では、大腸がん治療の根幹となる手術治療、化学療法(抗がん剤治療)を主に担当しています。手術治療は、がんを含めた腸管と周囲のリンパ節を同時に切除する、がんに対する治療の基本であるとともに、最も根治的な治療になります。手術によってがんが根治的に切除できない場合においても、化学療法の著しい進歩に伴い、以前と比較すれば長期間の生存が得られるようになってきています。われわれ外科医師だけではなく内科や放射線科、病理診断科といった他科医師、看護師、薬剤師、理学療法士、栄養士といったスタッフたちと一丸となって、日々の診療にあたっております。
当科では大腸がん治療において、患者様の病状・進行度に応じて化学療法、放射線療法、外科的手術などを組み合わせた集学的治療を行っています。中でも手術においては、術後の回復が速やかで侵襲の少ない鏡視下手術をを積極的に行っています。
炎症性腸疾患には主に潰瘍性大腸炎とクローン病の2種類があり、いずれの疾患もヒトの免疫機構が異常をきたし腸に炎症を起こす疾患です。一旦発症すると根治することは稀であり、生涯治療を継続する必要があり、薬物治療がうまくいかない場合に手術を行うことになります。
具体的には、腸に孔があいたり膿瘍を形成したり、腸が狭くなったりした場合や癌を合併した場合に手術を行うことになります。当科では消化器内科と連携し、手術が必要な場合には適切なタイミングで行う事ができるようになっています。
狭窄が高率で再発し、再手術に至る症例の頻度が高くなっています。再手術の可能性高いため、可能な限り小範囲の切除にとどめる必要があります。
潰瘍性大腸炎の手術は、通常2回に分けて行います。
1回目の手術は大腸を全て切除し、小腸の断端を折り返して袋(回腸嚢)を作り肛門と吻合します。同時に口側の小腸で一時的な人工肛門を作ります。その理由は、回腸嚢と肛門の吻合部が治癒するまで、便が通過しないようにして吻合部を安静に保つためです。数ヶ月後に2回目の手術として、人工肛門を閉じる手術を行います。
潰瘍性大腸炎で、大腸から出血した場合や大腸に孔があいた場合は緊急手術を行います。この場合、3回の手術が必要になります。1回目の手術は緊急手術であり、全身状態の維持のためできるだけ短時間に手術を終わらせる必要があります。
そのため、骨盤内の大腸以外を切除する結腸亜全摘術と小腸で人工肛門造設術を行います。数ヶ月後に2回目の手術を行い、残った直腸を切除し、回腸嚢と肛門をつなぎ、新たに小腸で人工肛門を作ります。その後、3回目の手術として人工肛門閉鎖術を行います。